ドイツ人は犬の散歩に1日何回行く?「1日2回・1時間」の法律は本当か、犬と暮らす国のルール

「ドイツでは犬を1日2回、合計1時間以上散歩させることが法律で義務づけられた」。2020年ごろ、日本でもこの話がニュースやSNSで広まりました。結論から言うと、この規定は最終的に法律には入っていません。

ただ、ドイツで犬の散歩が日常に深く根づいているのは確かです。この記事では、散歩の義務をめぐる経緯を正確に整理したうえで、ドイツで犬と暮らすときのルールと習慣をまとめます。

この記事の要点

  • 「1日2回・計1時間」の規定は、2022年施行の改正で見送られた
  • 法律が求めるのは、屋外での十分な運動と、飼い主との1日数回の接触
  • 生後20週までの子犬は、1日4時間以上人と過ごすことが定められている
  • 犬税、リードの義務、飼い主の知識試験など、州や市ごとのルールがある

「1日2回・1時間」はどこから来た話か

ドイツの犬の散歩

ドイツには、犬の飼い方を定めた「動物保護犬令(Tierschutz-Hundeverordnung)」という政令があります。2020年、当時の連邦食料農業大臣がこの政令の改正案を示し、そのなかに「犬を1日に少なくとも2回、合計で少なくとも1時間、屋外で運動させる」という内容が含まれていました。

この案が報じられ、「ドイツでは散歩が義務になった」という話が各国に広まりました。しかし、改正案はその後の手続きで修正され、2022年1月1日に施行された改正では、この時間の規定は削られています。

見送られた理由は、犬によって必要な運動量が大きく違うためです。子犬や高齢の犬、病気の犬に一律で1時間の散歩を求めると、かえって負担になる。一律の数字より、それぞれの犬に合った運動を求めるほうが動物保護にかなう、と判断されました。

実際に法律が求めていること

現行の政令は、犬に屋外で十分な運動の機会を与えること、そして飼い主が1日に何度か十分な時間、犬と接することを求めています。「十分」の中身は数字では示されておらず、犬種や年齢、健康状態に応じて判断されます。

はっきりした時間の決まりがあるのは子犬だけです。生後20週までの子犬は、1日に合計4時間以上、世話をする人と過ごす必要があると定められています。社会性を身につける時期に、長時間ひとりにしないための規定です。

2022年の改正では、犬をつないだまま飼うことも原則として禁止されました。散歩の回数そのものより、犬が孤立せず、動ける環境で暮らせることを重視した改正だと言えます。

ドイツ人は実際にどれくらい散歩しているのか

法律で決まっていなくても、ドイツの街では朝夕に犬を連れて歩く人をよく見かけます。1日2〜3回、合わせて1時間以上を散歩にあてる飼い主は珍しくありません。

ドイツペット用品工業会(IVH)とドイツ動物用品小売業連盟(ZZF)の調べでは、2025年にドイツの家庭で暮らす犬は約1,000万頭。5世帯に1世帯が犬を飼っている計算です。人口あたりで見ても、犬は身近な存在です。

散歩が習慣になっている背景には、街のつくりもあります。ドイツの都市には大きな公園や森が近くにあり、住宅地から歩いて行ける距離に緑があることが多い。週末には、犬を連れて森を何時間も歩く家族の姿も見かけます。

ドイツで犬を飼うときのルール

ルール内容
犬税(Hundesteuer)市町村が犬の飼い主に課す税。ベルリンは1頭目が年120ユーロ、2頭目以降が年180ユーロ
リードの義務州や市ごとに決まる。ベルリンは2019年から市内全域でリードの着用が原則
飼い主の知識試験ニーダーザクセン州では、犬の飼い主に知識の証明が求められる。ブレーメン州も2026年7月から義務化
賠償責任保険多くの州で、少なくとも一部の犬について加入が義務づけられている

犬税は、犬を飼うことに税がかかるという、日本にはない制度です。金額は市町村ごとに違い、特定の犬種には高い税率が設定されていることもあります。犬を迎えたら、住んでいる市町村に届け出て登録します。

ベルリンでは、「犬の免許(Hundeführerschein)」と呼ばれる知識と実技の試験に合格すると、決められた場所でリードを外して歩かせることが認められています。試験を受けること自体が、しつけへの意識を高める仕組みになっています。

犬と一緒に出かけられる場所が多い

ドイツでは、犬と一緒に公共の場所へ出かけやすい環境があります。電車やバスには犬を連れて乗れますし、レストランやカフェでも、店内に犬を連れて入れる店が少なくありません。テーブルの下で静かに伏せている犬は、ドイツの飲食店でよく見る光景です。

ドイツ鉄道(DB)では、猫ほどの大きさの小型犬はケージやバッグに入れれば無料で乗せられます。それより大きな犬は、大人の運賃の半額の乗車券が必要で、車内ではリードと口輪をつけるのが決まりです。

犬を連れて入れる場所が多いのは、飼い主のしつけへの責任が重く見られているからでもあります。吠えない、人に飛びつかない、ほかの犬に向かっていかない。公共の場で静かにしていられることが、犬と一緒に出かけるための前提になっています。

ペットショップが少なく、保護施設から迎える文化

ドイツでは、子犬をペットショップで買うという習慣はあまりありません。犬を迎える方法として一般的なのは、ブリーダーから直接迎えるか、動物保護施設(ティアハイム)から引き取るかのどちらかです。

ティアハイムは全国にあり、保護された犬や猫が新しい飼い主を待っています。引き取るときには、住まいの広さや家族構成、働き方などについて面談があり、飼う環境が整っているかを確かめられます。

迎えるまでに手間がかかるぶん、衝動的に飼って手放すことを防ぐ効果があります。犬を飼うことは、税を払い、試験を受け、生活の時間を割くことでもある。そうした前提が、社会全体で共有されています。

日本の飼い主が参考にできること

ドイツのやり方をそのまま日本に持ち込むことはできません。住宅事情も、街の緑の量も違います。ただ、散歩の時間を数字で決めるのではなく、犬ごとに必要な運動を考えるという発想は、どこでも通用します。

若く活発な犬なら、1日2回、合わせて1時間以上の散歩が必要なこともあります。高齢の犬なら、短い散歩を何度かに分けるほうが負担は小さい。獣医師に相談しながら、その犬に合った量を決めるのが、ドイツの法律の考え方にも近いやり方です。

散歩中に守られているマナー

犬と出かけやすい社会は、飼い主がマナーを守ることで成り立っています。最も基本的なのが、フンの始末です。ドイツの公園や住宅地には、フンを入れる袋を配る箱とごみ箱が設置されていることが多く、放置すれば罰金の対象になる自治体もあります。

州によっては、春から夏にかけての野生動物の繁殖期に、森や野原で犬をリードにつなぐことを義務づけています。ニーダーザクセン州では4月1日から7月15日までがこの期間にあたります。巣立ち前の鳥や子ジカを犬が追い回さないための決まりです。

自転車道を犬と一緒に歩かない、ほかの犬とすれ違うときはリードを短く持つ。細かな決まりは法律ではなく習慣ですが、守らない飼い主には、周りの人がはっきり注意することもあります。

犬の学校に通うのは普通のこと

ドイツでは、子犬を迎えたら「犬の学校(Hundeschule)」に通わせる飼い主が多くいます。子犬のうちにほかの犬や人に慣れさせる教室から、基本の指示を教える教室、問題行動を直す個別指導まで、内容はさまざまです。

犬の学校は、犬をしつける場であると同時に、飼い主が犬との接し方を学ぶ場でもあります。先に書いた知識試験のある州では、試験対策の講座を開いている学校も少なくありません。

犬の学校に通う期間は、数週間の短い講座から、1年近く続けるものまでさまざまです。費用はかかりますが、公共の場で落ち着いていられる犬に育てることは、電車やレストランに一緒に行ける暮らしへの投資だと考えられています。飼い主どうしが知り合い、散歩仲間ができる場になっているのも、犬の学校のもうひとつの役割です。

日本から犬を連れていく、連れて帰るとき

ドイツで暮らすために日本から犬を連れていく場合、マイクロチップの装着、狂犬病の予防接種、所定の健康証明書などが必要です。予防接種は、入国の一定期間前までに済ませておく必要があります。

注意したいのは、日本に連れて帰るときです。日本は狂犬病の清浄国で、ドイツから犬を入れるには、狂犬病の抗体検査と、検査後の長い待機期間が求められます。準備には半年以上かかることもあるため、帰国の予定が決まった段階で、農林水産省の動物検疫所の案内を確かめておく必要があります。

ドイツの住宅では、賃貸契約で犬を飼えるかどうかが問題になります。犬の飼育を一律に禁じる条項は無効とされることが多いものの、大家の同意が必要になるのが一般的です。部屋を探す段階で、犬を飼う予定があることを伝えておくと、あとでもめずに済みます。

法律より、犬ごとに合わせた運動を求めるのがドイツの考え方

「ドイツでは1日2回・1時間の散歩が義務」という話は、改正案の段階で報じられた内容で、実際の法律には入りませんでした。現行の政令が求めているのは、犬に合った十分な運動と、飼い主との日々の接触です。

それでもドイツで散歩が日常に根づいているのは、緑の多い街、犬を連れて行ける場所の多さ、飼い主の責任を重く見る制度が重なっているからです。ドイツでの暮らしについては森鴎外のドイツ留学でも扱っています。

出典:Tierschutz-Hundeverordnung(2022年1月1日改正施行)、Kanzlei Fritz「Neue Tierschutzhundeverordnung – Warum Hundehalter beim Gassigehen keine Uhr brauchen」、IVH/ZZF「Der Deutsche Heimtiermarkt 2025」、Deutsche Bahn「Haustiere – Fragen & Antworten」、ベルリン州の犬税規定

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