世界最古のワイン産地は、フランスでもイタリアでもありません。ジョージアです。
この国のワイン造りは8000年の歴史を持つとされ、素焼きの壺を地中に埋めて醸す「クヴェヴリ」という製法は、2013年にユネスコの無形文化遺産に登録されました。
知名度と品質は比例しません。流通網、輸出戦略、歴史的な事情。有名になるかどうかは、味以外の要因で決まります。ここでは日本での知名度が低い5か国を取り上げます。
この記事で扱う5か国
- ジョージア:8000年の歴史、クヴェヴリ製法は無形文化遺産
- ルーマニア:ヨーロッパ有数の生産量を持つが輸出が少ない
- ハンガリー:トカイの貴腐ワインは世界三大貴腐ワインのひとつ
- クロアチア:アドリア海沿岸の固有品種
- レバノン:ベッカー高原の長い歴史

1.
ジョージア
黒海とカスピ海の間、コーカサス地方に位置する国です。ワイン造りの起源をめぐる考古学的な調査では、この地域から世界最古級の痕跡が見つかっています。
特徴的なのがクヴェヴリという製法です。素焼きの大きな壺を地中に埋め、果皮や種ごとブドウを入れて発酵させる。温度が安定した地中で、数か月をかけて熟成します。
白ブドウをこの方法で仕込むと、果皮の色素が移って琥珀色になります。これが「アンバーワイン」または「オレンジワイン」と呼ばれるもので、近年は自然派ワインの流行とともに世界的に注目されました。
味わいは、一般的な白ワインとは別物です。渋みがあり、香りに厚みがある。赤ワインに近い構造を持つため、肉料理にも合わせられます。
固有品種も豊富で、サペラヴィ(黒ブドウ)とルカツィテリ(白ブドウ)が代表的です。日本でも専門店やオンラインで入手できるようになってきました。
2.
ルーマニア
ヨーロッパの中でも有数の生産量を持ちながら、輸出比率が低いため日本での知名度がありません。
国内消費が中心という構造は、産地としては珍しくありません。自国で飲まれてしまうため、外に出てこない。フランスやイタリアが輸出産業としてワインを育てたのに対し、こちらは生活の中に留まっています。
カルパチア山脈に囲まれた地形と、大陸性の気候。ブドウ栽培には適した条件が揃っています。フェテアスカ・アルバやフェテアスカ・ネアグラといった固有品種があり、国際品種の栽培も行われています。
価格帯が抑えられているのも特徴です。同じ品質帯の西欧のワインと比べて、手に取りやすい価格で流通しています。

3.
ハンガリー
トカイ地方の貴腐ワインが、この国を語るうえで外せません。
貴腐とは、特定の条件下でブドウに灰色かび菌が付き、水分が抜けて糖度が凝縮する現象です。この状態のブドウから造られるワインは、蜂蜜のような甘みと複雑な香りを持ちます。
トカイの貴腐ワインは、フランスのソーテルヌ、ドイツのトロッケンベーレンアウスレーゼと並んで、世界三大貴腐ワインのひとつに数えられます。歴史も古く、17世紀には既に生産されていたとされる。
甘口だけの産地ではありません。辛口の白ワインも造られており、フルミントという固有品種は酸のしっかりした辛口に仕上がります。
社会主義体制下で品質が低下した時期がありましたが、1990年代以降に外国資本の投資が入り、水準が回復しています。
4.
クロアチア
アドリア海に面した細長い国土を持ち、内陸部と沿岸部で気候が大きく異なります。
沿岸のダルマチア地方では、プラヴァツ・マリという黒ブドウが栽培されます。この品種は、遺伝的にジンファンデル(イタリアのプリミティーヴォ)と近い関係にあることが分かっています。
興味深いのは、ジンファンデルの起源がクロアチアのツルリェナク・カシュテランスキという品種にさかのぼる、とする研究があることです。アメリカを代表する品種のルーツが、この小さな国にあった。
内陸のスラヴォニア地方では、白ワインが中心になります。グラシェヴィナという品種が広く栽培されていて、軽やかな辛口に仕上がる。
観光地としての人気が高まったことで、現地で飲む機会は増えました。一方、日本への輸出量はまだ多くありません。

5.
レバノン
中東にワイン産地があることは、あまり知られていません。
ベッカー高原は標高1,000m前後に位置し、昼夜の寒暖差が大きい。この条件がブドウの酸と糖のバランスを保ちます。降水量は少なく、日照は豊富です。
歴史は古く、この地域は古代フェニキア人の時代からワイン造りと交易の拠点でした。地中海世界にワインを広めた担い手のひとつと見なされています。
近代的なワイナリーは19世紀に整備され、フランスの影響を受けた造りが行われてきました。カベルネ・ソーヴィニヨンやシラーといった国際品種に加え、現地の品種も使われます。
内戦や周辺の情勢によって生産が困難だった時期もあり、それでも造り続けてきた歴史があります。
なぜ
知られていないのか
5か国に共通するのは、品質の問題ではなく流通と歴史の問題です。
東欧の産地は、20世紀後半の体制下で量産が優先され、品質が落ちた時期がありました。国際市場での評価が回復するには時間がかかります。
輸出のための仕組みも差があります。フランスやイタリアは格付け制度を整え、産地のブランドを国として売り込んできました。輸出を前提としない国は、その努力をしていません。
日本の流通事情も関係します。輸入業者が扱う量が少なければ、店頭に並びません。消費者が知る機会がなければ需要も生まれない、という循環です。
選ぶときの
手がかり
産地別の目印
- ジョージア:クヴェヴリ製法かどうかを確認する
- ハンガリー:甘口ならトカイ、辛口ならフルミント
- クロアチア:赤はプラヴァツ・マリ、白はグラシェヴィナ
- ルーマニア:フェテアスカの名が付く品種
- どの国も、まずは専門店かオンラインで探す
スーパーの棚にはまず並びません。ワイン専門店、輸入食品店、オンラインショップ。手に入れるならこの3つです。
価格帯は幅がありますが、知名度が低いぶん、同じ品質のフランスワインより安く買えることが多い。試す段階なら、2,000〜3,000円台から選べます。
有名でないことと、
うまくないことは別
ジョージアの8000年、ハンガリーのトカイ、クロアチアの固有品種。いずれも歴史と実力を持ちながら、流通の事情で日本に届いていません。
最初の一本を選ぶなら、ジョージアのアンバーワインが分かりやすい。白ブドウから造られたのに琥珀色で渋みがある、という体験は他の産地では得られません。
出典:ジョージアワインおよびクヴェヴリ製法に関する公開情報(ユネスコ無形文化遺産登録は2013年)





