イタリアでは、パネットーネを名乗って売るための条件が法律で決まっています。2005年に定められた省令では、バターを16%以上、卵黄を4%以上、レーズンと柑橘の砂糖漬けを合わせて20%以上使い、天然酵母で発酵させることが求められます。条件を満たさないものは「パネットーネ」として売れません。
ミラノ生まれのこのクリスマス菓子は、国が守るほどイタリアの食文化に深く根づいています。この記事では、パネットーネの特徴と法律の中身、誕生にまつわる話、よく比べられるパンドーロとの違い、おいしい食べ方までをまとめます。
パネットーネの基本
- ミラノ発祥の、ドライフルーツ入りの発酵菓子
- 2005年の省令で、材料と配合の最低基準が決まっている
- 天然酵母で長時間発酵させ、焼き上がりは逆さに吊るして冷ます
- ヴェローナ生まれのパンドーロと、クリスマスの定番を二分する
パネットーネとはどんなお菓子か

パネットーネは、ブリオッシュに近い生地にレーズンやオレンジ、レモンの皮の砂糖漬けを練り込み、背の高いドーム形に焼き上げた菓子パンです。高さが15cmを超えるものも珍しくなく、断面には縦に伸びた細かな気泡が並びます。
イタリアでは、11月ごろからスーパーやパン屋の店先に箱入りのパネットーネが山のように積まれ、クリスマスから年明けにかけて食べられます。家族や友人、取引先への贈り物としても定番で、年末のイタリアではパネットーネの箱を抱えて歩く人をよく見かけます。
価格の幅も広く、スーパーで数ユーロで買える工業製品から、老舗の菓子店が手作りする数十ユーロのものまであります。職人のパネットーネは予約が必要なことも多く、12月の半ばには売り切れる店も珍しくありません。
法律で決まっている材料
パネットーネの定義は、2005年7月22日に定められた省令で決まっています。のちに2017年に一部が改められ、今もこの基準が使われています。
| 材料 | 基準 |
|---|---|
| バター | 16%以上。乳脂肪から作られたものに限る |
| 卵黄 | 4%以上。カテゴリーAの鶏卵を使う |
| レーズンと柑橘の砂糖漬け | 合わせて20%以上 |
| 発酵 | 天然酵母(サワー種)を使う |
| そのほか | 小麦粉、砂糖、塩など |
この基準の目的は、大量生産の安い製品と、伝統的な製法で作られたものを区別することです。バターを植物油脂に置き換えたり、天然酵母を使わずに作ったりしたものは、パネットーネの名前で売ることができません。
同じ省令は、パンドーロや、復活祭の菓子コロンバについても基準を定めています。季節の菓子の名前そのものを、国が品質の約束として扱っているわけです。
天然酵母で長時間発酵させる

パネットーネ作りで最も時間がかかるのが、発酵です。天然酵母を使った生地は、何度かに分けて材料を加えながら発酵させ、焼き上がるまでに丸2日ほどかかることもあります。
天然酵母は、乳酸菌などが作る酸によって、独特の香りと、ほどよい酸味を生地に与えます。この酸には生地が傷みにくくなる働きもあり、パネットーネが常温で数週間から数か月もつ理由のひとつになっています。
焼き上がったパネットーネは、串を刺して逆さに吊るして冷まします。バターと卵の多い、やわらかく背の高い生地は、そのまま置くと自分の重さでしぼんでしまうためです。パン屋の工房に逆さのパネットーネがずらりと並ぶ光景は、この菓子ならではのものです。
誕生にまつわる話
パネットーネの起源には、いくつもの言い伝えがあります。よく知られているのが、15世紀のミラノの宮廷で、料理人がクリスマスの菓子を焦がしてしまい、見習いのトーニが手元の材料で作ったパンを代わりに出したところ評判になった、という話です。「トーニのパン(pan de Toni)」が名前の由来だとされます。
ただし、これは言い伝えで、確かな記録があるわけではありません。「大きなパン」を意味する言葉から来たとする説もあります。名前の由来ははっきりしないものの、ミラノで古くからクリスマスに特別なパンを食べる習慣があったことは確かです。
今の背の高い形が広まったのは20世紀に入ってからです。1919年、ミラノの菓子職人アンジェロ・モッタが、生地を紙の型に入れて高く焼く方法を広めたとされています。その後、同じミラノのアレマーニャなどの会社が工業生産を始め、パネットーネはイタリア全土、さらに世界へ広まりました。
パンドーロとの違い

イタリアのクリスマスで、パネットーネと人気を二分するのがパンドーロです。「黄金のパン」を意味する名前のとおり、卵黄をたっぷり使った黄色い生地が特徴です。
| パネットーネ | パンドーロ | |
|---|---|---|
| 発祥 | ミラノ | ヴェローナ |
| 形 | 背の高いドーム形 | 底が星形の、先の細い山形 |
| 中身 | レーズンと柑橘の砂糖漬けが入る | 何も入らない |
| 食べ方 | そのまま、または温めて | 粉砂糖をかけて食べる |
パンドーロは1894年、ヴェローナの菓子職人ドメニコ・メレガッティが製法の特許を取ったことで知られています。ドライフルーツが苦手な人はパンドーロを選ぶことが多く、どちらが好きかは、イタリアの家庭で毎年のように話題になります。
おいしい食べ方
パネットーネは、そのままちぎって食べても十分においしい菓子です。オーブンや電子レンジで少し温めると、バターの香りが立ち、焼きたてに近い食感に戻ります。切るときは、縦に放射状に切り分けるのが一般的です。
イタリアでは、マスカルポーネに卵黄と砂糖を合わせたクリームを添えることも多く、甘口のスパークリングワインと一緒に楽しみます。残ったパネットーネは、フレンチトーストにしたり、パンプディングにしたりして食べきるのが家庭の知恵です。
開封したあとは乾きやすいので、切り口をラップで覆い、袋に入れて保存します。一度に食べきれない大きさなら、切り分けて冷凍しておくと、年明けまで楽しめます。
日本で選ぶときのポイント
日本でも、12月になると輸入食品店や百貨店でイタリア製のパネットーネが並びます。国内のパン屋が天然酵母で焼いたものも増えました。
イタリア製なら、袋や箱に「Panettone」とあれば、先に書いた省令の基準を満たしています。原材料表示では、バターが使われているか、天然酵母(lievito naturale)と書かれているかを見ると、伝統的な製法に近いかどうかが分かります。
大きさは、500gから1kgのものが一般的です。家族で数日かけて食べるなら1kg、少人数なら500gでも十分な量があります。
チョコレートチップ入り、ピスタチオクリーム入りなど、伝統の形から離れた味も増えています。まずは基本のレーズンと柑橘の砂糖漬けが入ったものを食べてから、変わり種を試すと、違いがよく分かります。
イタリアのクリスマスの食卓
イタリアのクリスマスは、12月24日の夜から始まります。イヴの夕食では肉を控え、魚介料理を中心にするのが南部を中心とした伝統です。25日の昼には家族が集まり、ゆっくりと長い食事をとります。
パネットーネが出てくるのは、こうした食事の締めくくりです。クリスマスで終わりではなく、1月6日の公現祭(エピファニア)まで、祝いの期間を通して食べ続けます。年末年始に親戚や友人の家を訪ねるたびに、別の店のパネットーネが出てくることも珍しくありません。
復活祭のコロンバ
パネットーネとよく似た生地で作るのが、復活祭の菓子コロンバです。「鳩」を意味する名前のとおり、鳩が羽を広げた形に焼き、表面をアーモンドと砂糖の衣で覆います。
コロンバは、1930年代にミラノの菓子メーカーが、クリスマス以外の時期にもパネットーネの設備と生地を活かすために売り出したのが始まりとされています。今では春の定番として定着し、パネットーネと同じ省令で基準が定められています。
南米でも愛されるパネットーネ
パネットーネは、イタリア移民とともに海を渡りました。とくに南米では、クリスマスに欠かせない菓子になっています。ペルーでは「パネトン」と呼ばれ、ホットチョコレートと一緒に食べるのが定番で、家族や職場でパネトンを贈り合う習慣があります。
ブラジルやアルゼンチンでも、年末になるとスーパーに箱入りのパネットーネが並びます。南半球のクリスマスは真夏ですが、それでもパネットーネは祝いの食卓に欠かせない存在です。イタリア生まれの菓子が、地球の反対側で季節を越えて根づいている例です。
家で作るのが難しい理由
パネットーネは、家庭で焼くのが最も難しい菓子パンのひとつと言われます。天然酵母を元気な状態に保ち、何度にも分けて発酵させる作業には、温度と時間の細かな管理が必要です。
バターと卵黄が多い生地は、発酵の途中でだれやすく、焼き上げても膨らみきらないことがよくあります。職人でも、納得のいくパネットーネを焼けるようになるまでに何年もかかるとされます。家庭で楽しむなら、まずは信頼できる店のものを食べ比べて、好みの味を見つけるほうが近道です。
クリスマスまでの時間を、少しずつ切り分けて楽しむ菓子
パネットーネは、ミラノで生まれ、天然酵母で長い時間をかけて発酵させ、法律で材料まで決められたクリスマスの菓子です。バター、卵黄、ドライフルーツをたっぷり使った生地は、焼き上がると逆さに吊るされて冷まされます。
イタリアでは、12月に入ると毎日少しずつ切り分けて、クリスマスまでの時間を楽しみます。ヨーロッパの焼き菓子についてはバウムクーヘンとはやザッハトルテとはでも扱っています。
出典:Decreto ministeriale 22 luglio 2005「Disciplina della produzione e della vendita di taluni prodotti dolciari da forno」(2017年改正)、DirittoConsenso「La ricetta del panettone: la tutela legislativa italiana」





