バウムクーヘンは、ドイツでは細かい決まりのあるお菓子です。ドイツの食品基準では、粉100に対してバターを100以上、全卵を200以上使い、ベーキングパウダーは使わないとされています。日本のスーパーで見かける手軽なバウムクーヘンの多くは、この基準からすると別の菓子に近いものです。
ドイツ生まれでありながら、今では日本のほうが身近なお菓子になりました。この記事では、名前の意味、ドイツでの定義と作り方、そして日本に伝わり広まった経緯をまとめます。
バウムクーヘンの基本
- 名前はドイツ語で「木のケーキ」。断面の層が年輪に見えることから
- ドイツの基準では、粉100に対してバター100以上、全卵200以上。ベーキングパウダーは使わない
- ザルツヴェーデル産のものは、EUの地理的表示で保護されている
- 日本では1919年3月4日、広島で初めて販売された
名前の意味は「木のケーキ」

ドイツ語のBaum(バウム)は「木」、Kuchen(クーヘン)は「ケーキ」。切り口に現れる何重もの層が木の年輪に見えることから、この名前がつきました。日本では「バームクーヘン」とも書かれますが、ドイツ語の発音に近いのは「バウムクーヘン」です。
ドイツでは「ケーキの王様(König der Kuchen)」とも呼ばれます。焼くのに手間と技術がいり、材料も贅沢に使うため、特別な日の菓子として扱われてきました。
ドイツの基準で決められていること
ドイツには、食品ごとの成分や製法の基準を定めた「ドイツ食品便覧(Deutsches Lebensmittelbuch)」があります。そのうち焼き菓子の基準である「Leitsätze für Feine Backwaren」に、バウムクーヘンの項目があります。
ドイツの基準の主な内容
- 粉やでんぷん100に対して、バターを100以上使う
- 同じく100に対して、全卵を200以上使う
- ベーキングパウダーは使わない
膨らませる力は、泡立てた卵だけが担います。ベーキングパウダーを使わないぶん、生地はきめが細かく、しっとりと重みのある食感になります。バターの量が粉と同じかそれ以上なので、口に入れたときの香りも強い。伝統的なものは、焼き上がったあとに表面をチョコレートや砂糖の衣で覆い、乾燥を防ぎます。
日本で売られている製品には、マーガリンやショートニングを使ったものや、膨張剤を加えたものもあります。どちらが悪いということではなく、ドイツの基準に沿った「本来の」バウムクーヘンとは配合が違う、ということです。原材料表示を見れば、使われている油脂と膨張剤の有無が分かります。
心棒に生地をかけて焼く

バウムクーヘンは、回転する心棒に薄く生地をかけ、直火やオーブンの熱で焼き固め、その上にまた生地をかけて焼く、という作業を繰り返して作ります。層の数は、職人の手作業なら15〜20層ほどが目安です。
一層ごとに焼き色がつくため、切り口にあの縞模様が生まれます。生地をかける厚さや焼き時間がそろっていないと、層の幅がばらつきます。均一な年輪を作れるかどうかが、職人の腕の見せどころです。
心棒を抜いた跡が、バウムクーヘンの中央の穴です。ドイツでは、焼き上がった大きな筒状のバウムクーヘンを斜めに薄く切って売るのが一般的で、日本でよく見る丸い輪切りとは見た目が少し違います。
本場のひとつ、ザルツヴェーデル
ドイツ東部、ザクセン=アンハルト州のザルツヴェーデルは、バウムクーヘンの町として知られています。19世紀から焼かれてきた伝統があり、町の菓子店では今も職人が心棒を回しながら焼いています。
ザルツヴェーデル産のバウムクーヘンは、2010年にEUの地理的表示保護の対象になりました。この名前で売るには、その地域で伝統的な製法を守って作る必要があります。シャンパーニュやパルミジャーノ・レッジャーノと同じ種類の保護です。
起源については、木の棒に生地を巻いて焼いた古代ギリシャの料理にさかのぼる説や、ポーランドやリトアニアの似た菓子とのつながりを指摘する説など、いくつかの見方があります。心棒で生地を焼く菓子はヨーロッパ各地にあり、バウムクーヘンもその系譜のひとつと考えられています。
日本に伝えたのはドイツ人捕虜の菓子職人

日本で初めてバウムクーヘンが売られたのは、1919年3月4日です。第一次世界大戦で捕虜として日本に送られたドイツ人の菓子職人、カール・ユーハイムが、広島県物産陳列館で開かれたドイツ作品の展示即売会で焼いたのが始まりとされています。
ユーハイムは中国の青島で菓子店を営んでいたところ、日本軍の捕虜となり、広島湾の似島の収容所に送られました。展示即売会の会場となった広島県物産陳列館は、のちに原爆ドームとして知られる建物です。
解放後、ユーハイムは日本に残って菓子店を開きました。これが現在の洋菓子メーカー、ユーハイムの始まりです。初めて販売された3月4日は、今では「バウムクーヘンの日」とされています。
本国より日本で広まった理由
ドイツでバウムクーヘンは、どこのパン屋にもある菓子ではありません。専用の設備と技術が要るうえ、戦争の影響で技術が途絶えた地域も多く、日常的に食べるものではなくなっていきました。
日本では反対に、贈答用の菓子として定着しました。年輪を重ねる形が長寿や繁栄を連想させ、結婚式の引き出物に選ばれることが多かったためです。自動で焼き上げる機械の普及もあって、コンビニやスーパーで手軽に買える菓子にもなりました。
ドイツを旅行した日本人が、本場でバウムクーヘンを探して見つけられないという話はよく聞きます。ドイツで食べるなら、専門店や、ザルツヴェーデル、ドレスデンなど東部の町の老舗の菓子店を目当てにするのが確実です。
ドイツ式と日本式の違い
| ドイツの伝統的なもの | 日本で一般的なもの | |
|---|---|---|
| 形 | 大きな筒を斜めに薄く切る | 輪切り、またはひとり分の小さなもの |
| 表面 | チョコレートか砂糖の衣で覆う | 何もかけないものも多い |
| 食感 | きめが細かく、ずっしりしている | ふんわり、しっとりとしたものが多い |
| 主な場面 | 特別な日の菓子 | 贈答品、日常のおやつ |
日本では、ふんわりとした軽い食感が好まれ、生地に膨張剤を加えたり、焼き方を工夫したりした製品が多く作られてきました。本場のずっしりした食感を知ってから日本のものを食べると、同じ名前の別のお菓子のように感じるかもしれません。
おいしく食べる工夫
ドイツでは、コーヒーや紅茶と一緒に、薄く切って少しずつ食べるのが一般的です。バターが多い菓子なので、冷蔵庫で冷やしすぎると固くなり、香りも立ちにくくなります。常温に戻してから食べると、バターの香りと、しっとりした食感がはっきり分かります。
少し温めるのも一つの方法です。電子レンジで数秒温めると、表面のバターがやわらかくなり、焼きたてに近い香りが戻ります。ホイップクリームを添えるのも、ドイツでよく見る食べ方です。
ヨーロッパ各地にある、心棒で焼く菓子
心棒に生地を巻きつけたり、かけたりして焼く菓子は、ドイツ以外にもあります。見た目も食感もそれぞれ違いますが、焼き方の考え方はバウムクーヘンと共通しています。
| 菓子 | 国・地域 | 特徴 |
|---|---|---|
| シャコティス | リトアニア、ポーランド | 生地を垂らしながら焼き、枝のような突起ができる |
| クルトシュ・カラーチ | ハンガリー | 発酵生地を巻いて焼き、砂糖をまぶす。筒状のまま売られる |
| トルデルニーク | チェコ、スロバキア | クルトシュ・カラーチに近い菓子。プラハの観光地でよく見かける |
| ガトー・ア・ラ・ブロッシュ | フランス南西部 | 串に生地をかけて焼く、祝い事の菓子 |
リトアニアのシャコティスは、結婚式などの祝いの席に欠かせない菓子です。生地が垂れて固まった突起が木の枝のように見え、バウムクーヘンとは別の意味で「木」を思わせる形をしています。
保存と日持ち
バウムクーヘンは、生菓子に比べて日持ちのする菓子です。未開封なら、製品に表示された賞味期限まで常温で保存できるものが多い。直射日光と高温多湿の場所を避ければ十分です。
開封したあとは乾燥が大敵です。切り口をラップで包み、密閉できる袋や容器に入れておきましょう。すぐに食べきれない場合は、1切れずつラップで包んで冷凍すると、1か月ほどは風味を保てます。食べるときは常温で自然に戻します。
贈り物に選ぶときのポイント
日本ではバウムクーヘンは贈答品の定番です。選ぶときは、原材料、日持ち、切り分けやすさの3つを見ると失敗しにくい。
原材料を見れば、バターだけを使っているか、マーガリンや膨張剤が入っているかが分かります。職場で配るなら、個包装の小さなものが便利です。家族向けや、ゆっくり味わってほしい相手には、大きなホールのものを選び、自分で切り分けてもらうのも楽しみのひとつになります。
表面に砂糖の衣をかけた「ハード」タイプと、何もかけない「ソフト」タイプがある店も多く、食感の好みで選べます。ドイツの伝統に近いのは、衣をかけたハードタイプのほうです。
年輪の一層ごとに、職人の手間が重なっている
バウムクーヘンは、ドイツでは粉と同じ量のバターと倍の卵を使い、膨張剤なしで一層ずつ焼き重ねる、手間のかかる菓子です。日本には1919年に伝わり、贈答品として本国以上に広まりました。
次にバウムクーヘンを手に取ったら、原材料表示を見てみてください。バターだけを使っているか、膨張剤が入っているか。それだけで、ドイツ式に近いのか、日本で独自に育ったものなのかが分かります。ヨーロッパの食文化についてはNutri-Scoreとは?でも扱っています。
出典:Deutsche Lebensmittelbuch-Kommission「Leitsätze für Feine Backwaren」、Wissensforum Backwaren「Baumkuchen – Der König der Kuchen」、ユーハイム「お菓子のおはなし」、EU地理的表示登録(Salzwedeler Baumkuchen)





