シフォンケーキは、1927年にアメリカ・ロサンゼルスで生まれたケーキです。考案したのはハリー・ベーカーという保険の外交員で、彼はこのレシピを約20年間、誰にも明かしませんでした。秘密の材料は、バターの代わりに使ったサラダ油です。
ふわふわの食感で知られるこのケーキは、なぜ油を使うのか。この記事では、シフォンケーキの誕生と、レシピが公開されるまでの経緯、軽く焼き上がる理由、そして家庭で失敗しにくい作り方のポイントをまとめます。
シフォンケーキの基本
- 1927年、ロサンゼルスの保険外交員ハリー・ベーカーが考案
- 約20年間レシピを秘密にし、1947年に食品会社ゼネラル・ミルズへ売却
- 1948年、「100年ぶりの新しいケーキ」として一般に公開された
- バターの代わりにサラダ油を使うことで、冷めてもしっとりやわらかい
保険の外交員が生んだケーキ

ハリー・ベーカーは1883年生まれ。もとは保険の外交員で、のちにケータリングの仕事に転じた人物です。1927年ごろ、彼は自宅の台所で試作を重ね、これまでにない軽い食感のケーキを完成させました。
ベーカーはこのケーキを、ハリウッドの映画関係者が集まる有名レストランなどに届けて評判を得ます。ところが、作り方は誰にも教えませんでした。どれほど頼まれても、材料の配合は秘密のまま。シフォンケーキは長いあいだ、ベーカーにしか作れないケーキでした。
「シフォン」という名前は、薄く軽い絹織物のシフォンに由来するとされています。ふわりと軽い食感を、布の軽さにたとえた名前です。
20年後に公開された「秘密のレシピ」
約20年がたった1947年、ベーカーはレシピを食品会社のゼネラル・ミルズに売りました。同社は翌1948年、自社の料理ブランド「ベティ・クロッカー」の冊子で、シフォンケーキのレシピを公開します。
このときの宣伝文句が「100年ぶりの新しいケーキ」でした。冊子には基本のレシピに加えて、味や仕上げを変えた14種類のアレンジが載せられ、シフォンケーキはアメリカの家庭に一気に広まりました。
公開された時期もよかったと言えます。第二次世界大戦が終わったあとのアメリカでは、家庭でケーキを焼く文化が広がり、食品会社は小麦粉や材料と一緒に新しいレシピを売り込んでいました。家庭の台所にある材料だけで作れ、失敗が少なく、見た目も華やかなシフォンケーキは、この流れにうまく乗りました。
明かされた秘密の材料は、サラダ油でした。当時のケーキはバターを使うのが当たり前で、液体の油を使うという発想は珍しいものでした。この一点が、シフォンケーキの食感を決めています。
ふわふわに焼き上がる3つの理由

軽い食感を生む仕組み
- 卵白をしっかり泡立てたメレンゲで膨らませる
- バターではなく油を使うので、冷めても固くならない
- 中央に筒のある型で焼き、逆さにして冷ます
メレンゲで膨らませる。シフォンケーキは、卵を卵黄と卵白に分けて使います。卵黄に油や水分、粉を混ぜた生地に、しっかり泡立てたメレンゲを合わせる。メレンゲの気泡が焼くときに膨らみ、生地を押し上げます。
油を使う。バターは冷えると固まるため、バターを使ったケーキは冷めると生地が締まります。サラダ油は常温でも液体のままなので、冷めてもしっとりやわらかい食感が続きます。軽さと、しっとり感を両立できるのはこのためです。
筒のある型で焼き、逆さに冷ます。シフォンケーキの型は、中央に筒があります。熱が中心まで均一に伝わり、大きく膨らんだ生地も生焼けになりにくい。焼き上がったら型ごと逆さにして冷まします。こうすると、生地が自分の重さでしぼむのを防げます。
日本で広まったシフォンケーキ
日本でシフォンケーキが知られるようになったのは、戦後、アメリカの菓子文化が入ってきてからです。喫茶店やケーキ店で出されるようになり、やがて専門店も生まれました。
日本のシフォンケーキは、アメリカのものより軽く、きめ細かく焼き上げる傾向があります。抹茶、紅茶、ほうじ茶、黒ごまなど、和の素材を使った味も多く、今ではアメリカより種類が豊富なくらいです。
アメリカのシフォンケーキは、オレンジやレモンなど柑橘の味が定番で、表面を砂糖の衣やクリームで覆うことも多い。同じ名前のケーキでも、国によって姿は少しずつ違います。
アメリカでは、レモン風味のシフォンケーキを祝う日として、3月29日が「ナショナル・レモン・シフォンケーキ・デー」とされています。こうした記念日が生まれるほど、シフォンケーキはアメリカの家庭の定番になりました。一方で日本では、専門店が並ぶほどの人気を得ていて、生まれた国以上に進化したケーキのひとつと言えます。

家で作るときに失敗しやすい点
シフォンケーキは材料が少なく、手順も複雑ではありません。それでも失敗しやすいのは、メレンゲの扱いに結果が大きく左右されるからです。
よくある失敗
- メレンゲの泡立てが足りず、焼いてもしぼむ
- メレンゲを混ぜすぎて、泡が消える
- 型に油を塗って、生地が型を登れなくなる
- 冷ます前に型から外して、つぶれる
メレンゲは、角がピンと立ち、ボウルを逆さにしても落ちないくらいまで泡立てます。卵黄の生地と合わせるときは、まずひとすくいのメレンゲをしっかり混ぜてなじませ、残りは泡をつぶさないようにさっくりと混ぜます。
意外に知られていないのが、型に油やバターを塗らないことです。シフォンケーキの生地は、型の側面にくっつきながら上へ膨らみます。油を塗ると生地が滑り、高く膨らみません。型から外すときは、パレットナイフを側面に沿わせて一周させます。
焼き上がったら、逆さにしたまま完全に冷ますのが鉄則です。温かいうちに外すと、まだ固まりきっていない生地が自分の重さでつぶれてしまいます。
食べ方と保存
シフォンケーキは、そのままでも食べられますが、甘さを抑えたホイップクリームを添えると、生地の軽さが引き立ちます。果物を合わせるなら、酸味のあるベリーや柑橘がよく合います。
保存は、乾燥させないことが大切です。ラップで包んで常温なら1〜2日、それ以上なら冷凍すると風味を保てます。冷凍したものは、食べる前に常温で自然に戻すと、しっとり感が戻ります。
スポンジケーキ、エンゼルフードケーキとの違い
シフォンケーキは、「卵白だけで作るケーキ」と紹介されることがありますが、これは正確ではありません。卵白だけを使うのは、アメリカのエンゼルフードケーキのほうです。シフォンケーキは卵黄も使います。
| シフォンケーキ | エンゼルフードケーキ | スポンジケーキ | |
|---|---|---|---|
| 卵 | 卵黄と卵白に分けて使う | 卵白だけ | 全卵(共立て)など |
| 油脂 | サラダ油 | 使わない | バター |
| 食感 | 軽く、しっとり | 軽く、弾力がある | きめ細かく、ややしっかり |
| 型 | 中央に筒のある型 | 中央に筒のある型 | 丸型など |
エンゼルフードケーキは19世紀のアメリカで生まれた、卵白と砂糖、粉だけで作る白いケーキです。油脂を使わないので軽い反面、乾いた食感になりやすい。バターを使うスポンジケーキは風味が豊かですが、冷めると生地が締まります。
シフォンケーキは、エンゼルフードケーキの軽さと、卵黄と油によるしっとり感を組み合わせたケーキだと言えます。同じ筒のある型を使うのも、エンゼルフードケーキの流れをくんでいるためです。
材料それぞれの役割
基本の材料
- 卵白:泡立ててメレンゲにし、生地を膨らませる
- 卵黄:コクと色を加え、生地をなめらかにつなぐ
- サラダ油:冷めてもやわらかい食感を保つ
- 水や牛乳:生地をしっとりさせ、焼き縮みを防ぐ
- 薄力粉:生地の骨組みを作る。混ぜすぎると重くなる
- 砂糖:甘みに加え、メレンゲの泡を安定させる
油は、香りの少ないサラダ油や米油を使うのが一般的です。オリーブオイルを使うと、香りの強い大人向けの味になります。バターの風味を少し足したいときは、溶かしバターを油の一部と置き換える方法もありますが、入れすぎると生地が重くなります。
多くのレシピでは、ベーキングパウダーを少量加えて膨らみを助けます。ただ、メレンゲをしっかり作れれば、入れなくても十分に膨らみます。ベーキングパウダーなしで焼くと、卵の風味がよりはっきり感じられます。
型の選び方
シフォンケーキの型は、アルミ製が一般的です。アルミは熱の伝わりがよく、生地が側面にくっつきやすいので、高く膨らみます。フッ素樹脂加工の型は生地が滑ってしまい、シフォンケーキには向きません。
大きさは、直径17cmか20cmがよく使われます。初めてなら17cmが扱いやすく、卵3〜4個分の生地がちょうど収まります。紙製の使い捨ての型もあり、贈り物にするときは型ごと渡せて便利です。
味を変えるときの注意
シフォンケーキは、生地に加える水分を別の液体に置き換えるだけで、さまざまな味にできます。紅茶なら濃く入れた紅茶を、コーヒーならコーヒーを水の代わりに使います。抹茶やココアは、粉の一部を置き換えて加えます。
注意したいのは、果物のような重い具材です。バナナやかぼちゃをたくさん入れると、生地が重くなって膨らみにくくなります。具材を入れるなら少量にとどめ、細かく刻んで生地全体に散らすと失敗しにくくなります。
油を使うという発想が、100年ぶりの新しいケーキを生んだ
シフォンケーキは、1927年に保険の外交員ハリー・ベーカーが考案し、約20年の秘密の期間を経て1948年に公開されたケーキです。バターの代わりに油を使うという発想が、冷めてもしっとりやわらかい食感を生みました。
メレンゲをしっかり泡立て、型に油を塗らず、逆さにして冷ます。この3つを守れば、家庭でもふわふわのシフォンケーキが焼けます。ヨーロッパ生まれの焼き菓子についてはバウムクーヘンとはやザッハトルテとはでも扱っています。
出典:Wikipedia「Chiffon cake」、Betty Crocker(General Mills)の1948年のレシピ冊子に関する記録





