ババ・オ・ラムとは|ポーランド王からパリ、ナポリへ渡ったラム酒のお菓子

パリのモントルグイユ通りには、1730年に開店した菓子店ストレールが今も営業を続けています。この店の名物が、ラム酒のシロップをたっぷり染み込ませた発酵菓子「ババ・オ・ラム」です。創業者のニコラ・ストレールは、ポーランドの元国王に仕えた菓子職人でした。

ポーランドで生まれ、フランスで形を整え、イタリアのナポリで郷土菓子になった。ババは、国境を越えて姿を変えてきた菓子です。この記事では、ババの特徴と誕生にまつわる話、ナポリでの位置づけ、似た菓子サヴァランとの違い、食べ方までをまとめます。

ババ・オ・ラムの基本

  • 発酵させた生地を焼き、ラム酒入りのシロップを染み込ませた菓子
  • ポーランドの元国王スタニスワフ・レシチンスキにまつわる起源の話が知られる
  • 1730年創業のパリの菓子店ストレールが、ババを広めたとされる
  • ナポリでは「ババ(babà)」の名で、街を代表する菓子になっている

ババ・オ・ラムとはどんなお菓子か

ババ・オ・ラム

ババ・オ・ラムは、卵とバターの入った生地をイーストで発酵させて焼き、ラム酒を加えたシロップにたっぷり浸した菓子です。生地はスポンジのように細かい気泡があり、シロップを吸ってしっとりと重くなります。

形は、背の高いきのこ形や円筒形が一般的です。ナポリでは、手のひらに収まるくらいのきのこ形が定番で、パン屋や菓子店のショーケースに並びます。生クリームやカスタードを添えたり、果物を飾ったりすることもあります。

ラム酒の香りがしっかり効いているので、大人向けの菓子です。フランスでもイタリアでも、アルコールを飛ばさずに使うことが多く、子どもや運転する人は注意が必要です。

ババの生地は、ブリオッシュに近い配合です。卵とバターを多く使い、イーストでしっかり発酵させることで、細かく均一な気泡ができます。この気泡があるからこそ、シロップを吸っても形がくずれず、スポンジのように中心まで染み込みます。

ポーランドの元国王と菓子職人

ババの起源として広く語られているのが、18世紀のポーランドの元国王スタニスワフ・レシチンスキの話です。彼は王位を失ったあとフランスに移り、ロレーヌ公としてリュネヴィルの宮廷で暮らしました。

言い伝えでは、スタニスワフが乾いて固くなった菓子パンに不満を持ち、菓子職人がそれをワインのシロップに浸して出したところ気に入られた、とされています。菓子の名前は、スタニスワフが愛読した『千夜一夜物語』のアリ・ババにちなんだという説もあります。

ただし、こうした逸話を裏づける確かな記録は多くありません。ポーランドには「ババ」と呼ばれる背の高い発酵菓子が以前からあり、それがフランスに伝わって形を変えた、と考えるのが自然です。ポーランド語の「ババ」は「おばあさん」を意味し、スカートを広げた女性のような形から名づけられたとも言われます。

パリの菓子店ストレール

ババ・オ・ラム
ナポリ(イタリア)

スタニスワフに仕えた菓子職人ニコラ・ストレールは、1725年、スタニスワフの娘マリーがフランス国王ルイ15世に嫁いだ際に、彼女に従ってヴェルサイユへ移りました。そして1730年、パリのモントルグイユ通りに自分の店を開きます。

この店で、ババはパリの人々に知られるようになりました。ラム酒を使った現在のババ・オ・ラムの形が整ったのは、19世紀に入ってからのことで、1835年ごろにはパリでラム酒に浸したババが作られていたとされています。

ストレールは今も同じ場所で営業していて、パリで現存する最古の菓子店のひとつとして知られています。店内にはババ・オ・ラムが並び、観光客も多く訪れます。

モントルグイユ通りは、パリ中心部のレ・アール地区にある歩行者中心の商店街です。パン屋や魚屋、チーズ店、カフェが並び、昔からパリの食の通りとして知られています。ストレールでババを買ったら、通りの店をのぞきながら歩くのも楽しみ方のひとつです。

ババのように、18世紀から同じ場所で同じ菓子を売り続けている店は、パリでも多くありません。店の内装には19世紀の装飾画が残り、菓子と一緒に店そのものの歴史を味わう観光客も多くいます。

ナポリの郷土菓子になったババ

ババは、19世紀にフランスの料理人たちによってナポリへ伝わったとされています。当時のナポリの貴族の家では、フランス人の料理人を雇うことが流行していて、彼らがフランスの菓子を持ち込みました。

ナポリでババは独自の発展をとげ、今では街を代表する菓子のひとつです。ナポリ語には「si nu babà(あなたはババのようだ)」という言い方があり、「とても素敵な人だ」「かわいい人だ」という褒め言葉として使われます。菓子の名前が褒め言葉になるほど、ナポリの人々にとって身近な存在なのです。

ナポリのババは、フランスのものよりもシロップをたっぷり吸わせ、ずっしりと重いのが特徴です。ラム酒の代わりにリモンチェッロなどのリキュールを使ったものもあり、瓶詰めのババは土産としても人気があります。

サヴァランとの違い

ババ・オ・ラム

ババとよく似た菓子に、フランスのサヴァランがあります。1844年、パリの菓子職人ジュリアン兄弟が、ババをもとに考案したとされる菓子です。

ババ・オ・ラムサヴァラン
形きのこ形、円筒形中央に穴の開いた輪の形
生地レーズンを入れることもあるレーズンは入れない
シロップラム酒入りラム酒のほか、キルシュなどを使うことも
仕上げそのまま、またはクリームを添える中央の穴にクリームや果物を詰める

サヴァランの名は、『美味礼讃』を書いた美食家ブリア=サヴァランにちなんでいます。輪の形に焼き、中央にクリームや果物を盛るため、ババより華やかな見た目になります。フランスの菓子店では、ババとサヴァランが並んで売られていることも珍しくありません。

ラム酒と菓子の関係

ババの香りを決めるラム酒は、サトウキビから作る蒸留酒です。17世紀にカリブ海の島々で作られ始め、砂糖の生産とともにヨーロッパへ広まりました。

フランスでは、カリブ海の海外県マルティニークなどで、サトウキビの搾り汁から直接作る「アグリコール」と呼ばれるラム酒が作られています。香りが華やかで、菓子に使うと風味がはっきり立ちます。ババのほか、クレープやカヌレ、フルーツケーキなど、フランスの菓子にはラム酒を使うものが多くあります。

菓子にラム酒を使う理由は、香りづけだけではありません。アルコールには生地やクリームの傷みを遅らせる働きもあり、保存のための知恵でもありました。

作り方の流れ

基本の工程

  • 小麦粉、卵、バター、イーストで発酵生地を作る
  • 型に入れて発酵させ、焼き上げる
  • 焼いた生地を乾かしてから、ラム酒入りのシロップに浸す
  • クリームや果物を添えて仕上げる

ババ作りのポイントは、焼いた生地を少し乾かしてからシロップに浸すことです。焼きたての生地は水分が多く、シロップを吸いにくい。一日置いて乾いた生地のほうが、スポンジのようにシロップをよく吸います。乾いた菓子をシロップでよみがえらせたという起源の話とも、ちょうど重なる手順です。

シロップは温かいうちに生地を浸し、中心までしっかり染み込ませます。ラム酒はシロップを火から下ろしてから加えると、香りが飛びにくくなります。

ナポリの菓子文化

ナポリは、イタリアでも菓子の種類が豊かな街として知られています。ババのほかにも、季節ごとに食べる菓子があります。

菓子食べる時期特徴
スフォリアテッラ一年中薄い生地を重ねて貝殻の形に焼き、リコッタのクリームを詰める
パスティエーラ復活祭麦の実とリコッタチーズを使ったタルト
ゼッポレ・ディ・サン・ジュゼッペ3月19日の聖ヨセフの日揚げたシュー生地にカスタードとチェリーを飾る
ストゥルッフォリクリスマス小さな揚げ菓子をはちみつでまとめる

ナポリの菓子の多くは、キリスト教の行事と結びついています。行事の時期になると、菓子店のショーケースがその季節の菓子で埋まります。旧市街の老舗では、立ち飲みのバールでエスプレッソとババを並べて味わうのがナポリ流です。

持ち帰るときの注意

ナポリでは、シロップに浸したババを瓶に詰めて売っている店があり、土産として人気です。ただし、瓶のシロップは液体として扱われるため、飛行機の機内に持ち込める量には制限があります。

国際線の機内に持ち込める液体は、1つの容器が100ml以下で、合計1リットル以内の透明な袋に入るものに限られます。瓶詰めのババはこの基準を超えることが多いので、預け入れの荷物に入れる必要があります。割れないよう、衣類で包んでおくと安心です。

日本で楽しむなら

日本では、ババよりもサヴァランのほうが洋菓子店で見かけることが多いかもしれません。どちらもラム酒の効いたシロップを染み込ませた菓子なので、サヴァランを食べたことがあれば、ババの味の方向はおおよそ想像がつきます。

ババを探すなら、フランス菓子の専門店やイタリア菓子を扱う店が確実です。食べるときは、冷やしすぎないほうがラム酒の香りがよく立ちます。冷蔵庫から出して少し置き、生クリームを添えると、シロップの甘さとクリームのまろやかさがよく合います。

国境を越えて姿を変えた、ラム酒のお菓子

ババ・オ・ラムは、ポーランドの発酵菓子がフランスに渡り、パリの菓子店でラム酒の菓子として形を整え、ナポリで郷土菓子になった菓子です。その道のりには、元国王と菓子職人をめぐる言い伝えが重なっています。

パリならストレール、ナポリなら旧市街の菓子店で。同じ名前の菓子が、街ごとに違う顔を見せてくれます。ヨーロッパの菓子についてはザッハトルテとはやバウムクーヘンとはでも扱っています。

出典:Wikipedia「Rum baba」「Baba au rhum」、Smithsonian Magazine「The Boozy History of Baba au Rhum」

Filed in

Which way?

留学とワーホリ、自分に合うのはどちらか。

診断してみる →