2025年に海外へ出かけた日本人は約1,473万人でした。その一方で、海外の日本大使館や総領事館が2024年に扱った援護は1万1,864件。数字を並べると、旅行者のほとんどは大使館の世話になることなく帰ってきています。
それでも「海外は怖い」と感じる人は少なくありません。怖さの正体がわからないまま考えると、不安はいくらでも大きくなります。この記事では、外務省と保険会社が公表しているデータから、海外で実際に何が起きているかを確かめ、起きやすいことから順に備える方法をまとめます。気持ちの整理の仕方は心配で海外に行けない人へで書いたので、ここでは数字と準備に絞ります。
この記事の要点
- 大使館が扱う援護で多いのは、遺失物と窃盗。強盗やテロは件数としては少ない
- 海外旅行保険を使った人は2025年度で22人に1人。いちばん多いのは病気やけがの治療費
- ハワイでは3週間の入院と医療搬送で2,530万円かかった例がある
- 怖さは「起きやすさ」と「起きたときの重さ」に分けると、備え方が決まる
海外で日本人に何が起きているか|外務省の援護統計
外務省は毎年「海外邦人援護統計」を公表しています。在外公館が日本人の相談や支援に対応した件数をまとめたもので、旅行者だけでなく海外に住む日本人も含みます。2024年の内訳で多いものを並べると、次のとおりです。
| 種類 | 件数(2024年) | 人数 |
|---|---|---|
| 遺失・拾得物 | 2,324件 | 2,300人 |
| 窃盗被害 | 1,928件 | 2,043人 |
| 傷病 | 678件 | 800人 |
| 詐欺被害 | 505件 | 531人 |
| 事故・災害 | 202件 | 288人 |
| 強盗・強奪 | 133件 | 148人 |
いちばん多いのは、パスポートや財布をなくす遺失物です。次が窃盗、つまりスリや置き引き。暴力を伴う強盗は133件で、窃盗の15分の1ほどです。ニュースで目にするテロや暴動は、件数としてはさらに少なくなります。
地域別ではアジアが5,399件で最も多く、欧州が3,008件、北米が1,592件と続きます。公館別の1位は在タイ日本国大使館の945件でした。日本人の渡航先として人気の国ほど件数が多くなるので、件数の多さがそのまま危険度を表すわけではありません。
つまり、海外で日本人が困る場面の多くは「物をなくす」「盗まれる」「体調を崩す」の3つです。どれも日本国内でも起こりうることで、準備で被害を小さくできます。
いちばん現実的なリスクは病気とけが
援護統計は大使館に相談があった件数なので、自分で病院に行って済んだ体調不良は入っていません。そこを補うのが保険会社のデータです。
ジェイアイ傷害火災保険によると、2025年度(2025年4月〜2026年3月)に同社の海外旅行保険の加入者のうち、保険金の支払いを受ける事故にあった人は22人に1人、4.5%でした。30年前は75人に1人だったので、約3.4倍に増えています。
支払いの内訳では、病気やけがの「治療・救援費用」が51.8%で半分以上を占め、カメラやスマートフォンの破損・盗難などの「携行品損害」が27.3%で続きます。犯罪よりも、旅先で熱を出す、転んでけがをする、という出来事のほうがずっと身近です。
海外の医療費は高額です。同社の2025年度の最高額は、ハワイで足が腫れて救急車で運ばれ、炎症性の病気で約3週間入院し、医療搬送で帰国した例で、2,530万円でした。1件あたりの平均医療費も2005年の約4.9万円から2025年は約8.1万円に上がり、ハワイでは2.8倍になっています。
不安を「起きやすさ」と「重さ」で分ける
漠然とした怖さは、2つの軸に分けると整理できます。起きやすいかどうか、起きたときにどれだけ困るか、です。
| 不安の種類 | 起きやすさ | 起きたときの重さ | 主な備え |
|---|---|---|---|
| スリ・置き引き | 高い | 中(財布・スマホを失う) | 分散して持つ、貴重品を体の前に |
| パスポート紛失 | 中 | 中(帰国手続きに数日) | コピーと写真を別に保管 |
| 病気・けが | 中 | 高(医療費が高額) | 海外旅行保険、常備薬 |
| 詐欺・ぼったくり | 中 | 小〜中 | 相場を調べる、声をかけてくる人に注意 |
| 強盗・テロ | 低い | 高 | 外務省の危険情報、たびレジ登録 |
こうして並べると、準備の優先順位が見えてきます。起きやすいスリと、起きたら重い病気。この2つにまず手を打てば、怖さの大半は具体的な対策に置き換わります。
出発前にやっておくこと
海外旅行保険に入る。クレジットカード付帯の保険で済ませる人もいますが、カードを使って旅行代金を払ったときだけ有効になる「利用付帯」のカードが増えています。補償額が治療費200万〜300万円程度のカードもあり、アメリカやハワイで入院すれば足りません。カードの条件を確かめ、足りなければ旅行期間だけの保険を追加するのが確実です。
「たびレジ」に登録する。外務省の「たびレジ」は、渡航先と日程を登録すると、現地の治安情報や緊急時の連絡がメールで届く無料のサービスです。登録者数は2025年2月時点で累計1,070万人を超えました。大規模な災害やテロが起きたとき、大使館が登録者の安否を確認する手がかりにもなります。
外務省の危険情報を見る。海外安全ホームページでは、国や地域ごとに危険レベルが4段階で示されます。レベル1は「十分注意してください」、レベル2は「不要不急の渡航は止めてください」、レベル3は「渡航は止めてください(渡航中止勧告)」、レベル4は「退避してください。渡航は止めてください(退避勧告)」です。同じ国の中でも地域でレベルが違うので、行き先の都市まで確認します。
パスポートと貴重品を分ける。パスポートの顔写真ページはコピーをとり、スマートフォンでも撮影しておきます。現金とカードは2か所以上に分けて持ち、1つ盗まれても旅を続けられるようにします。
地図をオフラインで使えるようにする。道に迷ってスマートフォンを手に持ったまま立ち止まる時間が長いほど、スリに狙われやすくなります。地図アプリの準備は海外旅行前にGoogleマップでやっておく8つの準備にまとめました。
起きてしまったときの連絡の順番
準備をしても、トラブルがゼロになるわけではありません。起きたときに何をどの順番でするかを決めておくと、現地で慌てずに済みます。
| 起きたこと | 最初にすること | 次にすること |
|---|---|---|
| 財布やカードを盗まれた | カード会社に電話して利用を止める | 現地の警察で被害届を出し、証明書をもらう(保険の請求に使う) |
| パスポートをなくした | 現地の警察で紛失・盗難の届けを出す | 日本大使館・総領事館で新しい旅券か「帰国のための渡航書」を申請する |
| 体調を崩した、けがをした | 保険会社の日本語サポートに電話する | 指定された病院を受診し、領収書と診断書を保管する |
| 事件や災害に巻き込まれた | 身の安全を確保し、家族に無事を伝える | 大使館に連絡し、たびレジのメールで指示を確認する |
パスポートの再発行には顔写真や戸籍謄本などが必要になり、数日かかることもあります。帰国の日が迫っている場合は、帰国専用の「帰国のための渡航書」のほうが早く手に入ることがあります。どちらにしても、パスポートのコピーと顔写真の予備があると手続きが進めやすくなります。
カード会社と保険会社の緊急連絡先は、スマートフォンだけでなく紙にも書いて、財布とは別の場所に入れておきます。スマートフォンごと盗まれた場合に、連絡先がわからなくなるのを防ぐためです。
言葉と文化の不安には、別の備え方がある
「英語が話せないから怖い」という声もよく聞きます。ただ、援護統計を見ても、言葉が通じないこと自体が原因の事件はほとんど出てきません。言葉の壁が本当に困るのは、病院や警察で状況を説明する場面です。
ここは保険が助けになります。多くの海外旅行保険には日本語の電話サポートがあり、病院の手配や通訳を頼めます。保険証券の電話番号をスマートフォンに登録しておくだけで、「言葉が通じなかったらどうしよう」という不安のうち、いちばん重い部分は片づきます。
文化やマナーの違いは、事前に少し調べれば避けられるものがほとんどです。チップの習慣、宗教施設での服装、写真撮影が禁じられている場所。失敗しても、その場で謝れば大ごとになることはまずありません。ヨーロッパの入国手続きの変化などはヨーロッパ旅行の「敷居が高い」は本当かで扱っています。
最初の1回を怖くしないための行き先選び
初めての海外で不安が大きいなら、行き先と旅の形で負担を減らせます。日本からの直行便があり、飛行時間が短く、日本人旅行者が多い都市を選ぶと、困ったときに頼れる情報も多く見つかります。台湾、韓国、グアム、ハワイなどがよく選ばれるのはそのためです。
ひとり旅が不安なら、航空券とホテルだけを旅行会社で手配し、現地では自由に動く形もあります。空港からホテルへの送迎をつけるだけでも、着いた直後のいちばん緊張する時間を乗り切れます。
日程は短めに組むのがおすすめです。3泊4日なら、体調を崩しても大きな影響は出にくく、帰国までの見通しも立てやすいからです。一度行って帰ってくる経験をすると、2回目からは準備の手間も不安もぐっと減ります。
怖さの大半は、保険と数枚のコピーで小さくなる
海外で日本人が困る出来事の多くは、物をなくす、盗まれる、体調を崩す、の3つです。どれも起きる前提で準備すれば、旅をやめるほどの理由にはなりません。海外旅行保険の補償額を確かめ、たびレジに登録し、パスポートのコピーを分けて持つ。それだけで、出発前の怖さはかなり具体的な安心に変わります。
出典:外務省「2024年(令和6年)海外邦人援護統計」(anzen.mofa.go.jp)、外務省「外交青書2025」、日本政府観光局(JNTO)出国日本人数(トラベルボイス 2026年1月21日)、ジェイアイ傷害火災保険「2025年度 海外旅行保険事故データ」(jihoken.co.jp、トラベルボイス 2026年7月28日)、外務省 海外安全ホームページ「危険情報」「たびレジ」






