語学習得にかかる時間の目安|FSIの区分から見る難易度と現実的な計画

スペイン語なら575〜600時間、日本語なら2,200時間。アメリカ国務省の語学研修機関FSIが公表している、言語ごとの必要学習時間の目安です。

注意すべき点がひとつあります。この数字は英語を母語とする職員を対象にしたもので、日本語話者にそのまま当てはまりません。

それでも参考になるのは、言語間の距離という考え方が読み取れるからです。時間の多寡は言語の優劣ではなく、母語からの遠さを示しています。

FSIの区分(英語話者が基準)

  • 最もやさしいグループ:575〜600時間(仏語・西語・独語など)
  • 中間のグループ:1,100時間前後(露語・ポーランド語・タイ語など)
  • 最難関グループ:2,200時間前後(中国語・韓国語・アラビア語・日本語)
  • この区分は英語話者が基準。日本語話者には別の距離が適用される

1.
「習得」の定義を
先に決める

習得にかかる時間を議論する前に、何をもって習得とするかを決めないと話が噛み合いません。

FSIが基準にしているのは、職務で使える水準です。会議に出て発言し、文書を読み、交渉する。CEFRでいえばB2からC1の領域にあたります。

一方、旅行で困らない水準ならA2、日常会話が成立する水準ならB1。必要な時間は桁が変わります。

「英語を習得したい」という目標のままでは、必要な時間も進捗も測れません。何ができれば終わりなのかを決めてください。

2.
時間の差は
距離の差

FSIの区分で時間が長い言語は、英語から遠い言語です。

遠さは複数の要素からなります。語順、文字体系、音韻、語彙の共通性、文法カテゴリーの有無。

スペイン語やフランス語が短時間で済むのは、英語と語彙の重なりが大きく、文字が同じで、語順も近いためです。

日本語が最難関に置かれるのは、その逆です。語順が異なり、文字体系が三種類あり、敬語という別のカテゴリーがあり、語彙の共通性も乏しい。

3.
日本語話者から見た
距離は別

ここが最も重要な読み替えです。

日本語と韓国語は、FSIの区分では同じ最難関グループに入ります。英語から同じ方向に遠いためです。

しかし日本語話者から韓国語を見れば、語順が一致し、助詞があり、漢字語の音が重なる。距離はきわめて近い。

同様に、英語話者にとって最もやさしいスペイン語も、日本語話者には英語ほどの近さはありません。ただし母音が5つで綴りと音が一致するため、発音の面では有利です。

つまりFSIの表は、そのまま使うものではなく、距離という考え方を借りるための資料として読むのが正しい。

4.
グループ別の
特徴

グループ時間の目安代表的な言語
最もやさしい575〜600時間フランス語、スペイン語、ドイツ語、イタリア語
中間1,100時間前後ロシア語、ポーランド語、タイ語、ベトナム語
最難関2,200時間前後中国語、韓国語、アラビア語、日本語

中間グループには、文字体系か文法のどちらかに大きな壁がある言語が並びます。ロシア語はキリル文字と格変化、タイ語は声調と独自の文字。

最難関グループは、複数の壁が重なっている言語です。中国語は声調と漢字、アラビア語は文字と語形変化と方言の差。

5.
1日あたりに
換算する

総時間を見ても計画にはなりません。1日あたりに割ってください。

600時間を1日1時間で進めるなら、約600日。1年8か月です。1日2時間なら10か月。

2,200時間を1日1時間なら6年、1日2時間なら3年。社会人が働きながら到達できる範囲かどうかが、ここで見えます。

この計算をしておくと、期待の水準が現実に合います。「1年で流暢になる」という目標は、1日何時間を前提にしているのか。

6.
時間だけでは
決まらない要素

総時間は目安であって、保証ではありません。同じ時間でも結果に差が出る要素があります。

第一に、学習の質です。FSIの数字は、専門の教師による集中訓練を前提にしています。独学で教材を眺める時間は、同じ密度になりません。

第二に、出力の量です。読むだけ、聞くだけでは話せるようになりません。話す時間と書く時間をどれだけ確保したか。

第三に、既習言語の影響です。英語をB2まで上げた人がフランス語を学ぶ場合、語彙の重なりが効いて時間が短縮されます。

第四に、環境です。その言語を使わざるを得ない状況にいるかどうかで、同じ1時間の密度が変わります。

7.
計画の立て方

5ステップ

  • 到達したい水準をCEFRで決める(A2/B1/B2)
  • その水準に必要な時間の目安を調べる
  • 1日に確保できる時間で割り、期間を出す
  • 期間が現実的でなければ、水準か期間を調整する
  • 3か月ごとに進捗を測る指標を決めておく

多くの挫折は、この計算をしないまま始めることで起きます。必要な時間を知らずに始めると、伸びない時期に「才能がない」と結論してしまう。

実際には、まだ必要な時間の1割も投じていない段階であることがほとんどです。

8.
伸びを
実感できない時期

学習を続けていると、伸びが止まったように感じる時期が来ます。

語学の上達は直線ではありません。ある程度まとまった量を入れたあと、あるとき急に聞き取れる範囲が広がる。その間は、投入した時間に対して変化が見えない期間になります。

この時期に「向いていない」と結論する人が多い。実際には、必要とされる総時間の1割か2割しか投じていない段階であることがほとんどです。

対策は、測る指標を変えることです。話せるかどうかではなく、投じた時間を数える。今月は何時間やったか。その数字は必ず積み上がります。

もうひとつは、3か月ごとに同じ課題で測ることです。同じ音声を聞いて聞き取れた割合、同じ文章を読むのにかかった時間。前回と比べられる形にしておくと、変化が見えます。

総時間を1日で割ってみる

FSIの数字は英語話者を基準にしたものですが、言語間の距離という考え方は借りられます。日本語話者にとっては、韓国語が近く、英語は遠い。

計画を立てるなら、到達したい水準を決め、必要時間を1日あたりに割ってください。その数字が現実的かどうかで、目標の設定を見直す。

出典:U.S. Foreign Service Institute の言語区分

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