単語帳が売られていない言語があります。エストニア語、リトアニア語、ハンガリー語。日本語で書かれた学習書が数点しかない言語では、そもそも選ぶという行為が成立しません。
専門分野でも同じことが起きます。医療、法律、工学。分野特化の単語集は存在しても、4,000円から1万円という価格帯で、しかも自分の必要とする範囲と一致しない。
そういう場面で使えるのが、辞書そのものを単語帳として使う方法です。珍しいやり方ですが、条件が合えば市販の単語帳より効率が出ます。
この方法が向いている4つの条件
- 学習言語に市販の単語帳が存在しない
- 専門分野の単語集が高価か、範囲が合わない
- 短期間でまとまった語彙を入れたい
- 1冊で調べる用途と覚える用途を兼ねたい

理由1
単語帳がない言語がある
市販の単語帳は、学習者の数に応じて作られます。英語には数百種類あり、中国語や韓国語にも十分な数がある。一方、話者数の少ない言語や、日本での学習者が少ない言語では、単語帳という商品自体が成立しません。
ワーキングホリデーの協定国32か国・地域のうち、日本語の学習教材が充実しているのは一部にすぎない。エストニア、ラトビア、リトアニア、スロバキア、ハンガリーといった国の言語を学ぼうとすると、教材探しの段階で止まります。
この場合、選択肢は二つです。英語で書かれた教材を使うか、辞書を直接使うか。英語経由は二重の負荷がかかるため、辞書を使うほうが早い場合があります。
現地で買った辞書を使う手もあります。滞在先の書店には、その言語の学習者向けの辞書が必ず置かれている。日本で手に入るものより実用的なことが多い。
理由2
専門分野の単語集は
高く、範囲が合わない
医学英語、法律英語、技術英語。専門分野の単語集は、一般的な単語帳より高価です。しかも収録範囲が自分の必要と一致するとは限りません。
たとえば医療通訳を目指す人と、看護記録を読みたい人と、製薬会社の資料を扱う人では、必要な語彙が重なりません。1冊の単語集がその全部を満たすことはない。
専門辞書なら収録数が桁違いに多く、自分の必要な範囲だけを切り出して使えます。初期費用は高くても、複数の単語集を買い足すより結果的に安く収まることがあります。
理由3
関連語がまとめて
目に入る
これが辞書を使う最大の利点です。単語帳は1語ずつ独立して並びますが、辞書は語形と派生語がまとまって載っています。
ある動詞を引くと、その名詞形、形容詞形、反意語、慣用表現が同じ見開きにある。1語を調べる労力で、関連する数語が視界に入ります。
語彙は孤立して覚えるより、関連づけて覚えるほうが定着します。単語帳の「英単語→日本語訳」という1対1の形式は、この関連づけを切り落としている。辞書はそれを保ったまま提示します。
加えて例文があります。単語の意味だけ覚えても、どの前置詞と組むのか、どんな文脈で使うのかが分からなければ使えない。辞書の例文は、その情報を同時に与えます。
理由4
調べる用途と
覚える用途を兼ねる
単語帳と辞書を別々に持つと、学習の動線が分断されます。単語帳で覚え、分からない語は辞書で調べ、調べた語はまた別のノートに書く。
辞書1冊に集約すると、この往復がなくなります。調べた語にその場で印をつけ、次に開いたときにその印を見る。調べることと覚えることが同じ動作になります。
紙の辞書なら付箋やマーカー、電子辞書なら単語帳機能、辞書アプリならブックマーク。どの形式でも、印をつける機能は備わっています。
実際の
やり方
ただ辞書を眺めても覚えられません。単語帳の代わりに使うなら、手順を決める必要があります。
辞書を単語帳として使う手順
- 範囲を区切る(見開き2ページ、あるいは1文字分)
- その範囲で「使いそうな語」だけに印をつける(10語以内)
- 印をつけた語の例文を音読する
- 翌日、同じ範囲を開いて印の語だけを確認する
- 1週間後にもう一度開く
重要なのは、すべての語を覚えようとしないことです。辞書には日常的にまず使わない語が大量に含まれています。それを含めて覚えようとすると、最初の数ページで挫折する。
選ぶ基準は「自分が使いそうか」です。自分の仕事、趣味、生活の中で出てきそうな語だけに印をつける。見開き2ページで10語を超えるなら、基準が緩すぎます。
印をつけた語を、別のノートに書き写す必要はありません。書き写す作業は時間がかかるわりに定着への寄与が小さく、辞書に戻る動線も切れます。
この方法の
弱点
公平に書いておくと、欠点もあります。
第一に、頻度順に並んでいません。単語帳は使用頻度の高い語から並ぶよう設計されていますが、辞書はアルファベット順か五十音順です。重要な語と使わない語が同じ扱いで並ぶ。
第二に、進捗が見えません。単語帳なら「1,000語中300語」と分かりますが、辞書では自分がどこまで進んだかを測りにくい。
第三に、持ち運びに向きません。紙の辞書は重く、通勤時間に開くのは現実的でない。この点は辞書アプリや電子辞書で解決できます。
つまり、市販の単語帳がある言語を学んでいるなら、素直に単語帳を使うほうが効率的です。この方法は、単語帳という選択肢が存在しない場合の代替として位置づけるのが正しい。
紙・電子・アプリ
どれを選ぶか
辞書を単語帳として使うなら、形式によって使い勝手が変わります。
紙の辞書は、印をつけた語を一覧で見返せるのが強みです。付箋を貼れば、何語に印をつけたかが物理的に見える。進捗が見えないという弱点を、ある程度は補えます。重さと検索の遅さが欠点です。
電子辞書は検索が速く、単語帳機能を内蔵している機種が多い。印をつけた語だけを呼び出して復習できます。ただし複数の辞書を横断して引く場面では、収録辞書に制約が出ます。
辞書アプリは持ち運びの問題を解決します。通勤時間に開けるうえ、ブックマークや履歴が自動で残る。一方で、画面が狭いため関連語や例文が一度に目に入りにくく、辞書を使う最大の利点が削られます。
用途で分けるのが現実的です。腰を据えて範囲を進める時間は紙か電子辞書で、移動中の復習はアプリで。同じ辞書の紙版とアプリ版を両方持てるなら、その組み合わせが最も無駄がありません。
まず書店を一周してから考える
辞書を単語帳として使うのは、教材の選択肢がない言語や、専門分野の語彙を扱う場合に限って有効な方法です。関連語と例文が同時に目に入る点で、1対1形式の単語帳より情報量では勝ります。
やるなら範囲を区切り、印をつける語を10語以内に絞ってください。全部覚えようとした時点で失敗します。
学んでいる言語に良い単語帳があるなら、まずそちらを使う。この方法を検討するのは、書店で探して見つからなかったあとで十分です。
メリットとデメリットを並べた記事はこちら:辞書を単語帳として使うメリットとデメリット|向いている人と向かない人








