辞書を単語帳の代わりに使う方法があります。印をつけた語だけを繰り返し確認し、市販の単語帳を買わずに語彙を増やしていくやり方です。
この方法には明確な利点と、同じくらい明確な欠点があります。片方だけを見て判断すると、合わない人が時間を無駄にすることになります。
メリットとデメリットの要約
- 利点:関連語と例文が同時に目に入る
- 利点:教材が存在しない言語でも使える
- 欠点:頻度順に並んでいない
- 欠点:進捗が測れない
- 欠点:持ち運びに向かない

メリット1
関連語がまとめて
視界に入る
単語帳は1語ずつ独立して並びます。「apple=りんご」という対応が1行あるだけです。
辞書は違います。ある動詞を引けば、その名詞形、形容詞形、反意語、慣用表現が同じ見開きに載っている。1語を調べる労力で、関連する数語が視界に入ります。
語彙は孤立した点として覚えるより、網として覚えるほうが定着します。単語帳の1対1形式は、この網の構造を切り落としている。
例文があるのも大きい。意味だけ覚えても、どの前置詞と組むのか、どんな場面で使うのかが分からなければ使えません。辞書の例文は、その情報を同時に渡してくれます。
メリット2
教材がない言語でも
使える
市販の単語帳は、学習者の数に応じて作られます。英語には数百種類ありますが、話者数の少ない言語では商品として成立しません。
エストニア語、リトアニア語、スロバキア語、ハンガリー語。日本語で書かれた学習書が数点しかない言語では、単語帳を探すこと自体が時間の無駄になります。
辞書なら、どの言語にもたいてい存在します。現地で買えば、日本で手に入るものより実用的なことも多い。
メリット3
専門分野に
対応できる
医学、法律、工学。専門分野の単語集は高価なうえ、収録範囲が自分の必要と一致しません。
医療通訳を目指す人と、看護記録を読みたい人と、製薬会社の資料を扱う人では、必要な語彙が重なりません。1冊の単語集がその全部を満たすことはない。
専門辞書なら収録数が桁違いで、自分の必要な範囲だけを切り出せます。初期費用は高くても、複数の単語集を買い足すより安く収まることがあります。
メリット4
調べると覚えるが
同じ動作になる
単語帳と辞書を別々に持つと、学習の動線が分断されます。単語帳で覚え、分からない語は辞書で引き、引いた語をまた別のノートに書く。
辞書1冊に集約すると、この往復が消えます。調べた語にその場で印をつけ、次に開いたときにその印を見る。
紙なら付箋やマーカー、電子辞書なら単語帳機能、アプリならブックマーク。どの形式にも印をつける手段は備わっています。
デメリット1
頻度順に
並んでいない
ここが最大の弱点です。
市販の単語帳は、使用頻度の高い語から並ぶよう設計されています。最初の500語を覚えれば日常会話の大部分をカバーできる、という構造が作られている。
辞書はアルファベット順か五十音順です。毎日使う語と、一生使わない語が同じ扱いで並びます。
この結果、選別の負担がすべて学習者側にかかります。どれが重要かを判断できる段階に達していない初学者ほど、この負担は重い。
対策としては、頻度順の単語リストを別に入手して、辞書で引く語の優先順位を決める方法があります。ただしそれができるなら、最初から単語帳を使ったほうが早い。
デメリット2
進捗が
見えない
単語帳なら「1,000語中300語」と数えられます。辞書では、自分がどこまで進んだかを測る手段がありません。
進捗が見えないことは、継続に影響します。努力が積み上がっている感覚が得られないため、やめる理由が生じやすい。
紙の辞書に付箋を貼っていくと、この問題はある程度緩和されます。付箋の厚みが、そのまま進んだ量として目に見える。
デメリット3
持ち運びに
向かない
紙の辞書は重い。通勤時間に開くのは現実的ではありません。
この点は辞書アプリで解決できますが、アプリでは画面が狭く、関連語や例文が一度に目に入りません。辞書を使う最大の利点が削られることになります。
落ち着くところは、腰を据える時間は紙か電子辞書、移動中の復習はアプリ、という併用です。同じ辞書の紙版とアプリ版を両方持てるなら、その組み合わせが最も無駄がない。
デメリット4
音声が
付いていない場合がある
単語帳には音声データが付属しているものが多く、発音を確認しながら覚えられます。
紙の辞書には音声がありません。発音記号は載っていますが、記号から正しい音を再現するには訓練が要ります。
電子辞書やアプリなら音声が付いているものもあるため、発音を重視するならこちらを選ぶほうがいい。
向いている人
向かない人
条件で判断する
- 向く:学習言語に市販の単語帳が存在しない
- 向く:専門分野の語彙を扱う必要がある
- 向く:すでに基礎語彙があり、選別ができる
- 向かない:英語など教材が豊富な言語の初学者
- 向かない:進捗が見えないと続かないタイプ
率直に書けば、英語を学んでいる初学者にこの方法は勧められません。良質な単語帳が大量にあり、頻度順に整理され、音声も付いている。わざわざ非効率な方法を選ぶ理由がありません。
この方法が意味を持つのは、単語帳という選択肢が存在しないか、存在しても自分の必要と合わない場合です。代替手段として位置づけるのが正確な扱いになります。
紙・電子辞書・アプリの
選び方
この方法を採るなら、辞書の形式が結果を左右します。
紙の辞書は、関連語と例文が一度に視界へ入る点で最も優れています。付箋を貼れば進捗も見える。欠点は重さと検索の遅さで、自宅での学習に限定されます。
電子辞書は検索が速く、単語帳機能を内蔵した機種が多い。印をつけた語だけを呼び出して復習できるため、この方法との相性がいい。複数の辞書を横断して引ける機種もあります。
辞書アプリは携帯性で勝ります。移動中の復習に使える一方、画面が狭く、関連語や例文が同時に目に入らない。辞書を使う最大の利点が削られる形です。
現実的には、腰を据える時間は紙か電子辞書、移動中はアプリという併用になります。同じ辞書の紙版とアプリ版を両方持てるなら、その組み合わせが最も無駄がありません。
1日の
進め方
具体的な手順を示します。
範囲を区切る。見開き2ページ、あるいは1文字分と決めます。区切らないと、どこまでやったか分からなくなります。
その範囲を眺め、自分が使いそうな語だけに印をつける。10語以内に抑えてください。見開き2ページで10語を超えるなら、基準が緩すぎます。
印をつけた語の例文を音読する。意味を思い浮かべながら読むこと。機械的に読み上げても定着しません。
翌日、同じ範囲を開いて印の語だけ確認する。1週間後にもう一度。別のノートに書き写す作業は不要です。時間がかかるわりに定着への寄与が小さく、辞書へ戻る動線も切れます。
単語帳が売っているならそれを買う
辞書を単語帳として使う方法は、関連語と例文が同時に見える点で情報量に勝り、頻度順でない点と進捗が測れない点で劣ります。
学んでいる言語に良い単語帳があるなら、そちらを使ってください。この方法を検討するのは、書店で探して見つからなかった後で十分です。
この方法を使う理由を整理した記事はこちら:辞書を単語帳代わりに使う勉強法|マイナー言語や専門分野で効く4つの理由








